■ゲームマスターの役割

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■ゲームマスターの役割

テーブルトークRPGを遊ぶ上でのさまざまな役割は、勿論これだけではない。ゲームキャラクターとしての役割(荒事や特殊技能、交渉など)もあれば、物語の登場人物としての役割(主人公、ヒロイン、ライバル、黒幕など)もある。そしてテーブルトークRPGを遊ぶ上で、もっとも基本的な「ゲームマスター」と「プレイヤー」という二つの役割がある。

ひとまずプレイヤーについては置いておくとして、ではゲームマスターの役割とは一体どのようなものだろうか。これを考え見定めておくことは、あなたが自分なりのマスタリングの手法を構築する上で必ず役立つだろう。

ゲームマスターの役割としてよく論じられる事柄

ゲームマスターの役割としてよく論じられる、以下の項目について考えてみることにしよう。

  • 遊ぶゲームシステムを選択する
  • シナリオに沿ってセッションの司会進行をする
  • ノン・プレイヤーキャラクター(NPC)を担当する
  • プレイの結果を裁量し、ゲームの状況を確定する
  • ゲームマスターは参加者を楽しませる責任を負う

遊ぶゲームシステムを選択する

ゲームマスターは遊ぶゲームシステムを選択する。GMレスのゲームシステムを除き、ゲームマスターがいなければセッションは遊べないのだから、これについては動かしがたい事実である。もちろんプレイヤーからの要請を受けてゲームマスターを担当することもあるが、それも決定権は原則的にゲームマスター側が持つことになる。

シナリオに沿ってセッションの司会進行をする

ゲームマスターの役割といえば、まず「司会進行」が挙げられる。セッションの風景とゲームマスターの振る舞いが、ミーティングやセレモニーの司会によく似ているためにそう言われるわけだ。セッションという会を、式次第としてのシナリオに沿って進行する。このとき個別の対応はルールブックに準拠する。ゲームマスターを「司会進行役」と言うときは、概ねそうした認識でよい。

ゲームマスターは司会進行役を務めるために、シナリオの全てを閲覧する権利を持つ。そしてもう一つ、ゲームマスターは必要に応じてシナリオをアレンジする権利を持つ。これはプレイヤーのプレイングの創造性を保証すること、そしてシナリオに沿ってゲームを進行することの二点を両立させるためにも必要な要素だ。

ノン・プレイヤーキャラクター(NPC)を担当する

ゲーム上の役割としてよく用いられる説明には、担当するゲーム上のトークン(コマ)の違いによって区別されることも多かった。たとえば「プレイヤーは自分の分身たるPCを担当し、ゲームマスターはそれ以外のNPCやゲーム世界についてを担当する」といった具合に。これについては一部のGMレスのゲームシステムを除いて、ほぼ全てのテーブルトークRPGが同じ区分の割り当てをしており、そのようにゲームシステムが設計されている。

ところでここで言われる「ゲーム世界」とは何だろうか。これはその時のゲームの状況において、キャラクターの周辺にあるさまざまな物体や生物、環境のことを指す。これらはテーブルトークRPGが「具体的な事象を扱うゲーム」として、また「参加者によって物語を編む遊び」としての要点となっている。これらの扱いについてはゲームシステムごとに異なるものの、ルール運用に密接に関係する。そのためゲームマスターは、こうしたゲーム世界について扱うために、ルールに習熟する必要がある、というわけだ。

プレイの結果を裁量し、ゲームの状況を確定する

ゲームシステム上の区分としては、ゲームマスターに与えられる権限についても挙げられる。ゲームマスターを必要とするほとんどのゲームシステムにおいて、ゲームマスターは参加者のプレイングについて裁量を行い、ゲームの状況を確定する権限を有している。ただしこの権限は、原則としてゲームシステムで規定されたルールに準じて適切に運用ずることが求められる。

この特別な権限がゲームマスターに委ねられている理由は、それがゲームのスムーズな運営に必要となるためである。テーブルトークRPGは一般にマルチゲームであり、参加者一人ひとりはゲーム上の役割においても、またゲームを楽しむ個人としても、ゲームに対して異なる価値観を持っている。あるプレイヤーにとっては期待通りの裁定が、別のプレイヤーの意にそぐわないこともあるだろう。そうした時、第三者として公平な裁定を下す人間が必要となる。またプレイヤーが勝手に自身に都合のよく裁定できるのであれば、ゲームからは緊張感が失われ、娯楽の要素としてのスリルを損なうことにもつながる。ゲームマスターに与えられた強権には、そうならないためのブレーキとしての役割も期待される。

ゲームマスターという役割とこの権限は、ほぼ不可分のものと扱われてきた歴史がある。そしてこの権限の運用については長年、属人技術とされてきた。現在でもその状況はあまり変わっていない。なぜならこの権限の運用は、ゲームマスター各人がどのようにテーブルトークRPGを楽しむのか、そのポリシーに深く関わる問題だからである。しかしそのことが、一つの呪いめいた言説を生み出すことにつながった。

ゲームマスターは参加者を楽しませる責任を負う

呪いめいた言説とはこれだ。「ゲームマスターは参加者を楽しませなければならない」という認識。ときにゲームマスターという役割を過大評価し、プレイヤーのわがままを正当化するこの言説は、しかし圧倒的に言葉が足りていない。ゲームマスターという役割は、あるいはそうした責任を果たせるかもしれない。しかしそれは、常に一人で負わなければならないものでも、負うべきものでもない。

たとえば参加者たちの話し合いをまとめるには「まとめ役」が、楽しませるには「にぎやかし」が、それぞれプレイヤー側にいてくれれば事足りるだろう。またNPCの振る舞いについても、近年ではプレイヤーの要望を容れたり、シナリオ上さほど重要でない部分についてはプレイヤー任せにしたりといった手法が肯定されるようになってきた。さらには裁量権に関係するルールやデータの確認などは、ルールブックがあれば誰にでもできる。「参加者を楽しませる責任」というものがあるとすれば、それは参加者全員が分担できるということを覚えておこう。

まずは「ゲームマスターの役割と権限はデザインできるものである」と認識することだ。そしてどのようなデザインが可能であるのかは、まずゲームマスターとして自分がどのような役割を果たしているのかについて、理解を深める必要がある。

本書はそのために必要となるの知識のうち、特に一般化しやすく汎用度の高いものについてまとめている。これらの知識を理解し、自在に取り扱えるようになれば、結果としてあなたがゲームマスターをする際に、この呪いめいた言説から逃れて自由に楽しむことを担保してくれるようになるだろう。